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和歌山家庭裁判所 昭和54年(家)696号 審判

申立人 山川俊夫 外一名

相手方 山川ケイ子

主文

相手方が申立人らの推定相続人であることを廃除する。

理由

一  申立人両名は、主文同旨の審判を求め、その実情として、次のとおり述べた。

1  相手方は、申立人両名の長女であるが、昭和五四年初頃から田口慶太なる申立人ら全く未知の男性と和歌山市○○○所在の申立人らが援助して借受けた借家で同棲しながら申立人らに全く知らせなかつた、

2  ところで、昭和五四年七月頃申立人らは、○○○○○株式会社々長山本正から上記田口が同社に就職するや、同社の金員五二〇万円を横領して行方をくらましてしまつたからこれを弁償せよ、との強硬な申入れを受け、驚いて相手方の上記住所を調べたところ、相手方も上記田口と共に行方をくらましており、未だ行方が不明である、

3  上記田口が同社に就職する際、相手方は、「○○の山川だから信用してほしい」等の言辞をろうして同社々長を安心させて雇傭させ、上記田口は就職後直ぐ上記横領行為をし、同人共々行方をくらましている事実にてらすと、相手方は上記田口と共謀して計画的に上記拐帯横領をした疑が濃厚である、

4  相手方には他所においても同様事件がある様子であり、このような著しい非行を続けている相手方に申立人らの財産を相続させることはできないから、推定相続人であることを廃除する、

との審判を求める、

二  よつて調査するに、当庁家庭裁判所調査官の調査結果、申立人山川俊夫及び山川稔の各審問の結果並びに本件記録に現われた一切の資料を総合すると、次の諸事実を認めることができる。

1  相手方は、申立人ら夫婦の嫡出の長女で、申立人らには相手方の他に二男一女がある、

2  申立人俊夫は、先代より機織を業とし、昭和一二年以来トリコット製造業を営み、和歌山市○○地区では資産家として名を成し、昭和三五年頃に設立した○○○○株式会社の代表取締役をし、妻である申立人幸子、長男稔夫婦及び次女清子らと同居している、

3  相手方は、昭和五三年七月六日山下和夫と協議離婚し、その後一時申立人らの許に帰住していたが、相手方の希望により、申立人らが権利金を出して和歌山市○○○×××番地所在の借家を借りてやり、そこに相手方を住まわせ、相手方は和歌山市内の会社事務員や商店の店員などして稼働していたが、昭和五四年初頃から申立人ら全く未知の田口慶太(昭和一六年一月二日生)なる男性と同棲するようになつたが、相手方はこの事実を申立人らに知らせなかつた、

4  申立人幸子は、昭和五四年四月頃相手方の上記住所を訪れ、初めて同棲の事実を知つたが、相手方から詳しい事情の説明を受けぬまま立戻つた、

相手方は、翌日頃申立人らの住居に電話をし、申立人幸子に、田口と結婚する意思で同棲している旨を述べると共に同棲の事実を告げなかつたことを詫びたけれども、申立人らはいずれも未知の田口との結婚ににわかに賛成する気持になれず、そのままに推移していた、

5  ところが、同年七月一六日頃申立人らは、和歌山市所在の○○○○○株式会社代表取締役山本正こと金信明から突然「ケイ子さんが、○○の山川だからと信用させ、身元保証人になつたので田口慶太を社員に雇つたが、会社の金約六〇〇万円を横領したまま二人共行方をくらましている、直接お宅に請求できないが、道義的責任を果してもらいたい」旨強硬な申入れを受けた、

驚いて申立人らが同社々長金から事情を聞き、また取調べたところ、(1)、上記田口は、昭和五四年三月上記会社の総務部社員に就職したが、その際相手方は、田口の妻で、○○の資産家山川の娘であるから信用してもらいたい、身元保証人になる旨申向けて上記会社々長金に田口の雇傭を懇請し、同社長を信用させ、上記田口を採用せしめ、その身元保証人となつたこと、(2)、上記田口及び相手方は、昭和五四年六月一日頃上記会社の斡旋により和歌山市○○×××番地所在○○住宅なる借家に転居し、上記田口は、二ヶ月間の試用期間後同社総務部の社員として採用されて働いていたこと、(3)、上記田口は、同社に雇傭された直後頃から同年七月中頃までの間に数回にわたつて、同社総務部社員として、同社の分譲住宅の売買代金合計約五二〇万円を顧客から受領して同社のため保管しながら同社に納入せずこれを横領していた事実が同年七月中頃同社々長金らに発覚したこと、(4)、上記田口及び相手方は、横領の事実が発覚するや、たちまち上記○○住宅から姿を消し、行方不明となつてしまつたこと、が判明した、

6  申立人らは、やむなく顧問弁護士と相談のうえ、同社々長金と示談し、横領金五二〇万円のうち四〇三万円を補償することとし、同月一八日に三三〇万円の支払を了し、残額七三万円については、上記田口が横領罪により起訴せられることを条件として、その起訴後に支払う旨約した、

同社々長金は、同月三〇日和歌山西警察署に上記田口による横領行為の被害届を提出し、申立人らは同月二四日和歌山北警察署に相手方の家出人捜索願を提出した、

7  上記田口は、昭和三八年二月一二日大阪地方裁判所において、窃盗及び詐欺の罪により懲役一〇月執行猶予三年の判決を受け、さらに昭和五三年三月一五日同裁判所において、窃盗、詐欺の罪により懲役一年六月執行猶予四年保護観察付の判決を受けたほか昭和四四年及び昭和四六年にそれぞれ業務上過失傷害の罪により各一万五千円の罰金刑を受けてこれが刑を終了している、

8  相手方は、昭和五四年七月に上記田口と出奔後、住民票の記載によれば、東京都で二回にわたつて転居した旨記載されているが、後の住民票は区長の職権により消除されており、また両親である申立人らに対しても現在に至るまで何ら消息を知らせないままでおり、その行方は全く不明である、

三  よつて按ずるに、成人に達した者が両親の意に添わない婚姻もしくは異性との同棲していること自体は、推定相続人であることを廃除する事由たる著るしい非行とはなし得ず、また本件において、申立人ら主張の如く、相手方が上記横領行為を田口と共謀したと迄は認められず、さらに相手方が田口と共謀のうえ他所で拐帯横領をなしたと疑うに足りる事跡は存しないが、永年営々と正当な事業を経営して資産家として名を成した両親のもとに不自由なく成育した相手方が、離婚後間もなく両親不知の間に、また、何ら詳しい事情を説明することなく両親ら全く未知の財産罪等の前科のある男性と同棲し、同人が就職後須叟の間に勤務先の多額の金員を横領して所在をくらますや、年老いた両親の悲歎や心労、さらには経済的負担の及び得べきことも何ら顧慮せず、音信不通のまま同棲相手と共に逃避行を続けていることは、被相続人たる申立人らと相手方との相続的共同関係を破壊する行為であり、相手方には民法八九二条に言う著るしい非行があつたと認めるが相当である。

そうすると、本件申立はいずれも理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 長谷川俊作)

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